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ACCLAIM

☆「クライスレリアーナ シューマン ピアノ作品集VI」  CD評より

1枚出るごとに、わくわくするほど次が楽しみになるCDシリーズが、そうあるわけではない。小林五月によるシューマンは、まさにそうした、選ばれたシリーズに属するものだ。(中略)シューマンがロマン的な心情を惜しみなく吐露したこれらの作品において、小林五月は、また一段と「自分」を打ち出して聴かせるノノと言ったら語弊もあろうか。それはけっして、作曲者の意向を無視して恣意的に振る舞うことではなく、あくまでもシューマンあっての自分、シューマンと深く同化したあまりにこそ際立つ己の個性を、必然的に世に示す行ないにほかならないのだから。《子供の情景》は〈トロイメライ〉に象徴されるように総じてゆったりとしたテンポのもとに奏でられる。このピアニストにおいて私がつねに共感を誘われる点のひとつは、「繰返し」ということの意味を最上級によくつかんでいる事実で、それが第1曲から顕著に現われるのが嬉しい。《子供の情景》のみならず《クライスレリアーナ》そして《アラベスク》のすべてにわたって示される小林五月の感じかたの深さ、それを表わす方法の豊かさ、確かさは真に感動的である。去る2月、実演にも接して浅からぬ印象を心に刻んだが、ディスクの出来映えもまた、得も言われず素晴らしい。私にとり、これは非常に大切な1枚である。●濱田滋郎(レコード芸術2010年4月号)

 

小林五月シューマン・シリーズVol.6で、09年11月山形県庄内町響ホールにて収録。彼女の描くシューマン像は夢見がちで繊細な詩人といったイメージでなく、ベートーヴェンに端を発してブルックナー、ブラームスへと連なる思索的で骨太なドイツ・ロマンティストの風貌が濃い。「子供の情景」にしても、遅めのテンポのうちに厚み豊かなソノリティーを持って、1曲1曲をじっくりと噛み締めながら語るように響かせる。「クライスレリアーナ」は、緩徐シーンの情感を深め、急速シーンでは情熱を秘めつつ、内奥を彫りさげ奏でて、味わい深い。●壱岐邦雄(ショパン2010年4月号「今月のおすすめ盤」)

 

☆2009年2月演奏会評より

(前略)通じて、シューマン音楽の大きな流れをよく捉えておりテンポの保ち方などとともに陰影と色彩感のコントラストが聴きものだった。「夜想曲集作品23」では4曲の性格を見事に色分けしての音楽表現。細やかで繊細な神経を使いつつの演奏には夜想曲独自のロマンがある。3番のアルペジョも美しく4番の音楽構成も印象的だった。後半は「交響的練習曲作品13」。ここでは、確かに管弦楽的な効果を大きく打ち出すことに成功しており、ピアノの域を超えたダイナミックな表現の中にも実に緻密な表情をみせつつ主題以下17の練習曲と変奏を進めていったのは何とも立派であったし、音楽の多様な変化がうまい相互関係で色づけられ、ペダリングの効果も大きく成果があったように思えた。大きなシューマンの世界を表出し生き生きとした音楽をたっぷりと聴かせたのは全く見事。●家永勝(音楽現代2009年4月号)

(前略)彼女のシューマンは本質的に楽曲の正統的な把握の上に成立している演奏であるが、めったにないイマジネーションの豊かさがあり、それがコントロールされたテクニックやゆるぎない集中力の持続などとも相俟って、独特の強力で輝かしい表出力を生んでいる。彼女のシューマンを「オーラの強い演奏」と評する向きもあるようであるが、それは確かに的を射た喩えであると考えてよいだろう。一方、当夜の3曲はどれも、彼女が作品をしっかりと自己の手中に収めていることが明らかな熱演であり、そこでは、表現の格調の高さが、一種独特の渋みや豊かな情熱のほとばしりと混然一体となっている様相が浮き彫りにされていた。また、作品の細部に至るまで熟考された彼女のアプローチも、このピアニストのメシューマン弾きモとしての強い自覚を感じさせるものであった。確かに実力派といえるピアニストであり、今後より一層の活躍を期待したい。●柴田龍一(ムジカノーヴァ2009年5月号)

(前略)はじめの「スケルツォ」を聴いても小林の演奏はあくまで自然体で、作品そのものに音楽を語らせようとする趣が強い。シューマンのように私的な心の発露としての意味を持つ作品では、演奏者の個性よりもこのような客観性が必要な場合もある。しかもその点で小林はきわめて鋭敏ですぐれたセンスの持ち主といえるだろう。「夜想曲集」もその演奏には常に張りがあり、第4曲など実に美しかった。一方、「交響的練習曲」は、5つの遺作変奏付の改訂版で演奏された。ここでも小林は美しく研ぎ澄まされて芯のしっかりした音でもってスケールの大きさを打ち出そうとしていて、彼女が感じたあるがままの音楽が披瀝されていた。(後略)●野崎正俊(ショパン2009年5月号)

 

☆「交響的練習曲〜シューマン・ピアノ作品集V」CD評より

「間奏曲」では明瞭な打鍵が際立っており、高まる感情を十分に描きながら、絶妙なバランスで透明性をキープしている。「交響的練習曲」も同様で、さらには全体の流れを考慮しつつ、第3変奏曲(第4練習曲)の踏みしめるような独特なテンポに現れているように、1曲1曲をじっくりと愛でているのが特徴だ。オイゼビウス的な曲も脆弱にならず、遺作第5変奏に典型的なように、たっぷりの余韻の中にきらきらと輝く音色を舞わせ、夢のような世界を作り出している。没入しつつも知的な設計を失わない名演で、シリーズ中でも特に優れた出来。(松本學氏)

 

☆2008年演奏会評より

(前略)小林は、鋭い集中力と強い表現意欲をもって、表情豊かでのびのびとした演奏を聴かせた。一曲一曲にドラマがあり、彼女の個性が強く打ち出されたなかに、耽美的なシューマン像が描かれていたと言える。●原明美(音楽の友2008年5月号)

(前略)前半は最初にその「幻想小曲集」から第1〜4曲が演奏されたが、ロマンティックで、たゆたうような浮遊感の良く出た「夕べに」とドラマティックに弾かれた「飛翔」の対比がまず素晴らしく、シューマンの醍醐味を満喫させてくれた。センスの良さと堅実なテクニックを併せ持ったピアニストだ。続いての6つの演奏会用練習曲は難曲故か採り上げられる機会の滅多にない演目だが、こういう演奏で聴くとシューマンのファンタジーが重く深い内容を持って迫ってくる。●浅岡弘和(音楽現代2008年6月号)

(前略)小林は、シューマン作品が潜在的に有する古典的構築観に根差しながら、鍵盤の底まで到達する重厚かつ深々としたタッチ、自然な息遣いと瑞々しく潤いに満ちた詩情、特有の激情など様々なファクターを渾然一体と調和させ、作品の持つキャラクターを丁寧に彫琢していく。そして何より音符間から滲み出てくる苦悩、焦燥、安堵、そして承継などシューマン独特の心象風景を鮮やかに描写し、見事な生命力を携えて芸術的高みへと昇華させたのである。鮮やかな演奏会だった。●真嶋雄大(ムジカノーヴァ2008年6月号)

 

☆「幻想小曲集〜シューマン・ピアノ作品集IV」CD評より

小林五月CD「幻想小曲集 シューマン ピアノ作品集Ⅳ」きわめて高水準を行く小林五月のシューマン・ピアノ作品集が、第4集を迎えた。「パガニーニの《カプリース》による6つの演奏会用練習曲集」作品10と《幻想小曲集》。(中略)競合盤のすでに多い《幻想小曲集》もまた、このピアニストが己の個性を刻み込み得た、ざらにはない演奏となっている。たとえば第2曲〈飛翔〉は決して空間を飛びめぐるばかりではなく、地上において必死にもだえた末に晴れて飛び立って行くシーンをもまじえた、ドラマティックな楽曲として表現される。シューマンがそのように思い描いたのだ、と信じさせるに足るやり方で。●濱田滋郎(レコード芸術2008年6月号/推薦・レコ芸特選盤)

(前略)「パガニーニの《カプリース》による6つの演奏会用練習曲集」は十分なヴィルトゥオジティの魅力とともに、音楽の内面に沈んだ情感を引き出している。その苦悩と憂いに富んだ表情が美しく、一つ一つの表現が個性的だ。(中略)《幻想小曲集》の〈夕べに〉のしみじみとした歌い出し。ここでの小林はこれまでになく、音楽の内面を見つめているように思える。その孤独な音の戯れは、優しいリリシズムに溢れている。〈飛翔〉も変化に富んだ表現にピアニストの繊細な感受性が認められる。剛毅で多彩な音色、スケールの大きな表現というモダンのグランド・ピアノの魅力を持つと同時に、デリカシーに富んで唯一無二の個性をそなえたシューマンだ。●那須田務(レコード芸術2008年6月号/推薦・レコ芸特選盤)

☆2007年「シューマンチクルスVol.3」演奏会評より

(前略)休憩後の「ソナタ1番」でもシューマンの音楽特有の多様な情景の変化を、旺盛なエネルギーと自在なアゴーギグを駆使して的確に捉えどっしりとした安定した構成力とともに、小林らしいダイナミックかつスケールの大きな演奏を聴かせた。●那須田 務(音楽の友2007年8月号)

(前略)安定感のあるテクニックと量感に富んだ芯のある音色をもち、なかなかドラマティックでスケールの大きいシューマンを聴かせていた。彼女の演奏で特に注目してポイントは、それが力強い集中力の持続に支えられていたと同時に、ゆるぎない構成感を伴っており、そうした諸条件が融合して演奏に輝かしい表出力を付与していた点にある。(後略)●柴田 龍一(ムジカノーヴァ2007年8月号)

☆「ソナタ第1番/第3番〜シューマン・ピアノ作品集III」CD評より

小林五月による「シューマン・ピアノ作品集」の第3巻。想像以上のすばらしさに、すっかり魅了されたというのが実感である。(中略)あえて言うが、二度、三度と聴き返すにつけ、この盤はシューマンの「ソナタ」の録音として最上のランクに入るものであり、その価値はすでに不朽だとさえ、私は信ずるに至った。このピアニストを心から祝福したい。●濱田 滋郎(レコード芸術2007年8月号/レコ芸特選盤)

(前略)彼女の演奏はシューマンに限らず堅牢かつ安定した構成感に定評があるが、こうした構成力に対する感覚や感性は天性のものだろう。ソナタ第1番の第2楽章は恋文のような音楽だが、その甘く切ない旋律を小林は美しい音色とともにじっくりと歌い上げていて感動的だ。(後略)●那須田 務(レコード芸術2007年8月号/レコ芸特選盤)

(前略)小林は何と共感を持って演奏していることだろう。楽曲の柱や骨組みがしっかりしているうえ、そこに盛り込まれた様々な意匠を巧みに配置して、流れるような一体感を打ち出すことに成功した稀有の演奏と言ってよい。第3番の第3楽章のクララの主題によるバリエーションなど、これほど意味があり美しい音楽とは初めて知ったくらいだった。●保延 裕史(音楽現代2007年8月号/推薦)

 


 

 

 

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